2026/01/15 09:32


古代エジプトから続く知恵と、エイジングの科学

新品のノンウォッシュのデニムを初めて手に取るとき、その「板」のような硬さに驚かれるかもしれません。歩くたびに響く「シュッ、バキッ」という乾燥した音は、他の衣類ではまず経験することのないものです。

まず、最初にお伝えしたい今回の結論はこうです。 新品のジーンズが硬いのは、デニム生地は糊付けされているからです。

その理由を、数千年にわたる歴史と、繊維工学の視点から紐解いていきましょう。


■ 1. 糊付け(サイジング)の起源は「古代エジプト」にあり

そもそも生地の糊付けの歴史は非常に古く、その起源は数千年前の古代エジプト時代まで遡ります。

  • 始まりは紀元前3000年: 当時は細いリネン糸を織る際、糸が毛羽立つのを防ぎ、強度を持たせるために植物の澱粉や天然の樹液が塗られていました。

  • 家庭の知恵と「へぎそば」: 中世には米の糊や海藻(ふのり)が使われました。新潟の「へぎそば」にふのりが使われているのは、もともと織物の糊付け用だったものをそばのつなぎに転用したのが始まりと言われています。



■ 2. 工業製品としての合理性:なぜ「糊」が必要なのか

現代のデニムにおいて、糊は「製造上の必須条件」です。

繊維を守るための補強

デニムは、インディゴ色などに染まった「たて糸」と染めていない「よこ糸」を高速で織り上げます。生地を織る際にたて糸をピンと引っ張った状態にしてヨコ糸を織っていきます。

たて糸が裸の状態では摩擦で断線してしまいます。そこで糸を糊でコーティングし、表面を滑らかかつ強靭に補強するのです。

裁断・縫製の精度を保つ「固定剤」

デニムは非常に重く、斜めにねじれやすい特性があります。糊で生地をカチカチに固めておくことで、ミリ単位の正確な裁断と縫製が可能になります。あの硬さは、設計図通りの形を維持するための「一時的な彫刻」のようなものなのです。


■ 3. 他の生地との決定的な違い「精練」のタイミング

シャツやTシャツの生地も織る段階では糊を使いますが、出荷前に必ず「精練(せいれん)」という洗浄工程を通ります。

  • 一般的な生地: 織る → 【精練・糊抜き】 → 出荷(不純物を除き、最初から柔らかい)

  • 生デニム: 染色 → 織る(糊をつけたまま) → 【そのまま出荷】

デニムは糸を先に染めてから織るため、後から洗う必要がありません。糊がついたままの方が輸送や保管時に型崩れしないという、メーカー側の合理性も重なっています。



■ 4. 洗っても「パキパキ」が戻る理由

「一度水洗いしたのに、乾いたらまた硬くなった」という現象もデニムならでは。 これは家庭の洗濯では糸の芯まで浸透した糊が完全には抜けません。

残った糊のおかげで「再生するハリ」があるからこそ、デニムは何度洗っても新しいシワを刻むことができます。


■ 5. 【結論】糊がついているからこその「絶大なメリット」

不便に思えるこの硬さこそが、デニムを愛する者にとっての最大の恩恵をもたらします。

  1. 「鋭い色落ち」のコントロール: 生地が硬いからこそ、膝や股関節に鋭い「折り目」がつきます。この折り目の頂点だけが集中して摩擦されることで、インディゴの青と内部の白(中白)のコントラストが鮮烈な、あなただけの「ヒゲ」や「ハチノス」が生まれます。

  2. 身体の形を「記憶」する: 履き込むことであなたの動作や体型を生地が写し取り、一度形が決まれば、それは世界でたった一着の「あなた専用のシルエット」へと変貌します。

  3. 「未完成」を完成させる愉しみ: 工場を出る時が100%の完成品である他の衣類と違い、生デニムは「80%の未完成品」です。残りの20%を自分の人生で書き足していく。この贅沢な時間こそが、デニムを履く真の醍醐味です。

今回はデニムってなんで硬いの??を解説しました。

次回は【デニムってなんで縮むんだよ!】を解説します。

気になる方は是非フォローよろしくお願いします!